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2016年6月18日 (土)

選挙公約は守って!

 所属モデルを強引にアダルトビデオの撮影現場に派遣したとして,芸能プロダクションの社長らが労働者派遣法違反容疑で逮捕されたというニュースがありました。モデルと会社との契約書に「アダルトビデオへの出演を含む」といったことが目立たないように記載されていて,女性が撮影を拒否すると「違約金が発生する」などと言って強引に出演させたとか。

 こんな悪質なケースでも,契約書に書かれていたら断るのは難しいということです。ネットでダウンロードする時の同意書などの場合は,ろくに読まずにクリック(同意)してしまう人が多いと思いますが(面倒なので僕もほとんど読みません),雇用に関する契約書などは一字一句きちんと読み(「恋愛禁止」と書かれている可能性もあるかも),控えを所持しておくぐらいの慎重さが必要だと思いますよ。

 さて本題。政治家が選挙で当選した時に,雇用契約を結ぶ相手は国や地方公共団体になるのかと思いますが,その政治家の採用を決めたのは有権者。つまり,その政治家なり政党に投票した人が採用を認めたわけで,選挙公約に書かれた内容は有権者との契約事項であり,選挙公約というのは雇用契約に匹敵する重要文書です。

 したがって,当然のことながら,政治家が選挙公約を守るのは当然の義務であり,公約を守らないのは有権者への背任行為。ところが残念なことに,たとえ選挙公約を守らない政治家がいたとしても「違法ではないが不適切」という程度の桝添さん状態。ここはぜひ公職選挙法を改正して,公約を守らない議員は失職するなり刑事罰を受けるなりして欲しいぐらいです。

 たとえば,最近話題になった消費増税延期について。前回総選挙時の自民党のマニフェストには「2017年4月に消費税を10%に引き上げる」と明言しています。「リーマンショック級の・・・」のような条件も何も付いていません。したがって,これを守らないのは重大な公約違反となります。増税する場合の前提条件を付けるなり,「原則として」のような便利な文言を入れておけば問題になることはなかったのにと思います。この選挙公約の文面を考えた人は,ほんとドジです。

 それはともかく,「公約を守る」ということに関して重要なのは,「その政治家が当選した時点の選挙公約に従う」ということ。これは当然のことだとは思いますが,この当たり前のことを全然わかっていない政治家が多い。自分の個人的考えや党議拘束内容が選挙公約と異なる場合には,まずは有権者との契約である選挙公約(自分が当選した時の選挙公約)に従うのが大原則です。

 一例を上げると,昨年成立した安保法(集団的自衛権の容認)について。以前のブログでも書いたように,2014年総選挙時の与党のマニフェストに「閣議決定に基づいて安全保障法制を整備する」と書かれており,甚だ不親切で手抜きの記載であるものの,形式上は書かれており,2014年総選挙で当選した与党の衆議院議員はこの安保法に賛成してもぎりぎり「公約どおり」と言えるでしょう。

 一方,その閣議決定以前に当選した与党の参議院議員は,選挙時の公約には集団的自衛権の容認の話は無かったにもかかわらず,その後に突然出てきた本法案に賛成したわけで,与党の参議院議員は全員,公約違反を犯したと断定できます。本来なら,この安保法は,参議院選挙の公約に載せてから2回の参議院議員選挙を経て,最大で6年間かけて成立させるべき法律です。もちろん,参議院で否決してから衆議院の3分の2以上の賛成で再可決するなら,それはそれでOKですが。

 そもそも参議院は,衆議院のような解散がなく,3年ごとに半数ずつ改選することにより,政治を「緩やかに」変化させるものであり,それが二院制の本来の趣旨であるということを義務教育でも教わりました。参議院議員が「当選した時の選挙公約を逸脱しない行動を取る」というだけで,この「緩やかな変化」は容易に実現できるはずなのに,肝心の議員はこれを全然理解しておらず,その時点の党の方針に従っているだけで,その結果,参議院は衆議院のコピーとなってしまっているのが現実。「参議院不要論」が出るのを許しているは,参議院議員自身の問題なんです。

 さて,今夏の参議院選挙で,自民党は「改憲勢力3分の2の確保」を目指しているように報じられていますが,先日のブログにも書いたように,治安維持法の再来となる可能性がある「表現の自由への制限追加」や,ヒトラー政権時代の全権委任法と同様のことが可能となる「緊急事態条項の追加」など,自民党が2012年に策定した憲法改正草案は,とても恐ろしい改正案と認識しています。

 それでも,この改正草案をきちんと公約に載せてもらった上で,選挙の結果として最終的に改憲可能な国会勢力を確保したなら,それはそれで民意であり(現行の選挙制度や定数配分が憲法違反であることはさておき),堂々と憲法改正を発議してもらえばいいでしょう。

 で,この憲法改正に関して,自民党が過去の公約や今夏の参院選の公約にどのように記載してきたのか,確認してみましょう。

1.2010年(H22年)参議院議員選挙(今年の改選予定参議院議員の前回選挙)
 新憲法案の概要が記載されていますが,2012年の草案に比べるとおとなしい内容。天皇の元首化や緊急事態条項の記載などはありません。

2.2012年(H24年)衆議院議員選挙(2014年に解散済み)
 2012年の憲法改正草案に準拠して,その概要が記載されています。

3.2013年(H25年)参議院議員選挙(今年の非改選参議院議員)
 同様に,2012年の憲法改正草案に準拠して概要が記載されています。それにしても,「憲法を国民の手に取り戻します」のキャッチフレーズはまったく意味不明。今の憲法は誰の手に渡っていると言いたいの? 今の憲法が正規の手続きによるものでないと言いたいのなら,堂々と「今の憲法は無効」として大日本帝国憲法に戻すことを主張すればいい。

4.2014年(H26年)衆議院議員選挙(現職の衆議院議員)
 憲法改正を目指すことしか記載されておらず,内容については何も書いていません。2012年に自民党が策定した草案を参照もしていない。2012年の草案は引っ込めたようにも読めます。それにしても,話は変わるけど,TPPに関して選挙公約に何も書いていなかったのには驚き。

5.2016年(H28年)参議院議員選挙(今年の改選予定参議院議員)
 同様に,憲法改正を目指すことは書かれているものの,具体的な改正内容の記載はありません。

 要するに,憲法改正草案を策定した直後の2回の選挙ではその草案を公約に載せているものの,その後は具体的な記載を引っ込めており,これでは公約とは言えません。今年の参院選挙は改憲が争点の一つであるかのように言う人がいるけど,まったくのピント外れ。自民党は具体案を公約に載せていないのだから,まったく争点にはなっていません。

 つまり,2014年に選ばれた現在の衆議院議員は,選挙公約に憲法改正内容が何も記載されていなかったので,具体的な改正案を発議することは許されません。安倍総理自身でさえ,具体的な改正案を出したりそれに賛成したりするのは公約違反ということになります。また,今年の参議院選挙で当選する人も同じです。与党が「改憲勢力3分の2の確保」を目指すのは勝手だけど,あの草案を発議したり草案に賛成したりできるのは,それをきちんと公約に載せた上で当選した議員(=2013年当選の参議院議員)だけです。

 自民党は過半数の議席を持つ最大勢力与党であり,やりたいことがほぼ何でもできる立場ですが,議員個人の考えやその時点での党議拘束よりも,自分が当選した時点の選挙公約を事務的・機械的に忠実に守るように,ぜひお願いしたいものです。

 当選した議員が選挙公約に縛られるという点は,もちろん野党議員も同じ。多数政党でないと実現できない項目は多々あるとしても,公約どおりの法案提出や予算提出などを真面目にやっているのかは大いに疑問です。もっとも,民主党(民進党)の選挙公約なんか読む気もしないので,僕は一度も読んでいませんが。

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