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2016年5月16日 (月)

日本国憲法改正草案(後編)

 前回の続き(最終回)です。自民党が2012年に発表した「日本国憲法改正草案」の主な改正点と僕のコメントです。改正箇所(青文字部)は要点のみを記載し,条文は必要に応じて簡略化したり表現を置き換えたりして記載していますので,ご了承下さい。草案の詳細はこちら↓
https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf

第79条-第2項:最高裁判所の裁判官の国民審査規定を「法律の定めるところにより国民の審査を受ける」に簡略化。
→憲法としてはこれでもいいけど,現行の国民審査の「空白/× 方式」は,審査として正常に機能しておらず,はっきり言って憲法違反。この際なので,「裁判官ごとに信任・不信任・棄権を選べる方式とすること」のように明確に記載して欲しい!

第79条-第5項:最高裁判所の裁判官の報酬が在任中は減額できない規定に対し,「分限・懲戒・一般公務員の例の場合 を除く」を追加。
→裁判官だけ特別扱いする必要はないと思うので,賛成。

第80条-第1項:下級裁判所の裁判官の任期について,「10年」を「法律で定める任期」に変更。

第80条-第2項:下級裁判所の裁判官の報酬が在任中は減額できない規定に対し,「最高裁判所の裁判官の報酬規定を準用する」と変更。
→裁判官だけ特別扱いする必要はないと思うので,賛成。

第81条:「最高裁判所は一切の法律等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する」(現行どおり)
→と言いながら,裁判所は法律等の違憲審査請求だけでは審査してくれず,具体的な被害を被った上で民事訴訟などを起こさない限り,違憲かどうかの判断はやってくれません。これはこれで裁判所の怠慢であり憲法不遵守だと思います。この際なので,「違憲訴訟があれば裁判所はその法律等の適合性を審査する義務がある」のように明確に憲法に規定して欲しい。

第83条-第2項:「財政の健全性は確保されなければならない」を追加。

第86条-第2項~第4項:「内閣は会計年度中に補正予算案を提出できる」「当該会計年度開始前に予算案の議決を得られる見込みがない時は,内閣は暫定予算案を提出しなければならない」「会計年度の予算は,国会の議決を経て翌年度以降も支出できる」を追加。

第89条:宗教活動への公金支出の禁止に関し,第20条-第3項にある「社会的儀礼又は習俗的行為」の場合は可能とするように変更。
→第20条-第3項のコメントと同じ。「社会的儀礼又は習俗的行為」の定義が曖昧であり,歯止めがなくなりそうでコワいです。

第89条-第2項:「公金は,国や地方公共団体などの監督が及ばない事業に支出できない」を追加。

第90条:国の収支決算について,「内閣は国会に提出」を「内閣は両議員に提出して承認を受ける」に変更。

第90条-第3項:「内閣は,会計検査報告の内容を予算に反映させて国会に報告」を追加。

第92条:「地方自治は,住民参加を基本とし,住民に身近な行政を総合的に実施する」および「住民は,地方自治体の役務を受ける権利と費用負担の義務を負う」を追加。

第93条:「地方自治体の種類は法律で定める」を追加。

第93条-第3項:「国と地方自治体は協力しなければならない」および「地方自治体は相互に協力しなければならない」を追加。

第94条-第2項:地方自治体の参政権対象者に「日本国籍を有する者」を追加。

第96条:「地方自治体の経費は自主的な財源を充てることを基本とする」「自主的な財源だけで不足の場合は,国は必要な財政上の措置を講じる」および「第83条-第2項(財政の健全性)は地方自治にも準用する」を追加。

第97条:地方自治特別法について,「特定の地方公共団体の組織・運営・権能について他の自治体と異なる定めをし,または特定の自治体の住民にのみ義務を課し権利を制限する特別法」と追記。

第98条:「緊急事態の宣言」について追加。要点は下記。
(1)内閣総理大臣は,外部からの武力攻撃・内乱等による社会秩序の混乱,大規模な自然災害,その他法律で定める緊急事態において,閣議にかけて緊急事態の宣言を発することができる。
(2)緊急事態の宣言は,事前または事後に国会の承認が必要。
(3)国会の不承認,国会による解除宣言の議決,および宣言が必要なくなった時に,閣議にかけて緊急事態の宣言を解除する。また,100日を超えて緊急事態宣言を継続する時は,100日を超えるごとに事前に国会の承認が必要。
(4)国会承認等に関して衆議院と参議院で異なった議決がされた場合や衆議院が議決して5日以内に参議院が議決しなかった時は,衆議院の議決が有効。

第99条:「緊急事態宣言の効果」について追加。要点は下記。
(1)内閣は法律と同一の効力を持つ政令が制定でき,財政上必要な支出や地方自治体へ必要な指示が可能。
(2)この政令と財政処分については,事後に国会の承認が必要。
(3)緊急事態宣言が発せられた場合,国民は国や公の機関の指示に従わなければならない。この場合でも,この憲法の基本的人権に関する規定は最大限に尊重されなければならない。
(4)緊急事態宣言が発せられている間は衆議院は解散されない。両議員の任期は特例を設けることができる。

→第98~99条の緊急事態条項は,かのヒトラー政権の「全権委任法」とまったく同様に,内閣による無制限立法が可能となり,これは「完全にアウト!」です。その気になれば,衆議院で過半数の議席を獲得した与党が何でもできてしまう。「3分の2」とかでなく過半数! しかも,衆議院が優先なので参議院での与党議席が半数以下でもできてしまう。
 たとえば,衆議院で過半数議席を獲得した与党で構成された内閣が,国内でテロとか大規模災害があった時に,内閣だけの判断で緊急事態を宣言できる。事前にせよ事後にせよ,与党は承認するでしょう(衆議院に優先権があるので参議院は否決でもいい)。100日を超えて継続する場合も同様。この宣言により法律と同じ効力を持つ政令が内閣単独でできるので,たとえば内閣の判断だけで法律が自由に制定できるような政令を作ってしまえば,それによって成立した法律自体は「法律」になってしまうため,緊急事態宣言が解除されたとしてもその規則は「法律」として有効。野党議員の議員資格剥奪なんかも簡単にできてしまいます。
 なお,憲法も当然法律の一つなので,緊急事態宣言時には憲法と同一の効力を持つ政令を出すことも可能なはず。第101条に「憲法に反する法律や政令は無効」とあるものの,緊急事態における「法律と同一の効力を持つ政令が制定可能」の方が優先すると解釈できます。これは,第99条にあえて「基本的人権に関する規定は最大限に尊重」と書かれていることからもわかります(憲法と同一効力の政令が不可なら,これを書く必要がないので)。なお,「基本的人権に関する規定は最大限に尊重」と書いてあるものの,あくまで「尊重」であり義務ではありません。
 そもそも,地下鉄サリン事件のような大規模テロや,阪神淡路大震災の時も東日本大震災の時も,既にある法律で十分対応できており,政府による緊急的立法行為が必要だったという話は聞かないし,この条文の必要性が理解できません。緊急時に法律の制約でできなくて困ることがあるなら,それを事前に洗い出して法律に反映させておけばいいだけ。想像力が欠如しているためその洗い出しができないということなのでしょうか。
 ということで,この第98~99条は,与党の過半数議席獲得だけで与党の意のままに何でもできてしまう,とんでもない条文と言えます。野党はこんな不条理な条文には賛成できないでしょう。同様に,今の与党が野党になったら,こんな条文は許せないと感じるはず。この条文は,自分自身が野党になった時のことを想定できない「想像力欠如」であると感じます。
 さらに,第99条にある「緊急事態宣言が発せられた場合,国民は国や公の機関の指示に従わなければならない」という記載も強烈。緊急事態かどうかにかかわらず,国民が法律や政令に従わなければならないのは法的には当然であり,それはあえて憲法に記載する必要がありません。あえてここに記載しているのは「法律や政令になくても国や公の機関の指示には従わなければならない」という意味です。恐ろしすぎます。

第100条:憲法改正手続きについて,「各議員の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し,国民投票で過半数の賛成が必要」を「各議院の総議員の過半数の賛成で国会が議決し,国民投票で有効投票の過半数の賛成が必要」に変更。
→そもそも,憲法に限らず,法律が頻繁に変わることによる不合理さというのがありますね。たとえば,選挙で国会勢力が変わるたびに,死刑制度が廃止されたり復活したりと繰り返されても困る・・・みたいな。その意味で,法律というのはある程度「変更しにくく」しておくことも理にかなっていると思います。で,通常の法律が「出席議員の過半数で成立」に対して,憲法については「各議院の総議員の過半数の賛成で国会が議決」,さらに国民投票を行うことによって「変更しにくく」なっており,僕としてはこの草案の条文でもいいのかなと思います。

現行の第97条:「基本的人権は・・・侵すことのできない永久の権利として信託」を削除

第102条:「天皇・大臣・国会議員・裁判官・その他公務員は,この憲法を尊重し擁護する義務を負う」を「すべて国民はこの憲法を尊重。大臣・国会議員・裁判官・その他公務員はこの憲法を擁護」に変更。
→「尊重する人」と「擁護する人」を使い分けているようですが,そもそも「尊重」も「擁護」も具体的に何を意味しているのか,よくわかりません。


 では,最後に,僕が特に気になった変更点をまとめると下記です。

(1)第9条の2-第3項の,集団的自衛権を違憲状態から合憲にするための憲法改正については,集団的自衛権が本当に必要なら改正すべきとは思いますが,結局集団的自衛権の必要性が全然明確になっていない。昨年政府が説明していた適用例は個別的自衛権で対応できるものばかりだったと記憶しており,集団的自衛権を合法化して何をどこまでやろうとしているのかはっきりせず,心配です。

(2)第21条第2項の「表現の自由」への制限の追加は,はっきり言って怖い。治安維持法の再来となる可能性があります。

(3)第24条の「家族は助け合わなければならない」という価値観の押しつけは勘弁して欲しい。

(4)第98~99条の緊急事態条項の追加は,ヒトラー政権時代の全権委任法と同じ道に進む危険性があり,絶対にダメ!

 ということで,この草案が自民党内の一部の人が「お遊び」で作った程度のものなら全然気にしませんが,正式に自民党の選挙公約に上がるのであれば,選挙で自民党に投票する勇気は僕にはありません。


関連ブログ:
 日本国憲法改正草案(前編)(2016年5月14日)
 日本国憲法改正草案(中編)(2016年5月15日)

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