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2016年5月15日 (日)

日本国憲法改正草案(中編)

 前回の続きです。自民党が2012年に発表した「日本国憲法改正草案」の主な改正点と僕のコメントです。改正箇所(青文字部)は要点のみを記載し,条文は必要に応じて簡略化したり表現を置き換えたりして記載していますので,ご了承下さい。草案の詳細はこちら↓
https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf

第12条:憲法が保障する自由と権利について,「公共の福祉のために利用する責任を負う」を「公益及び公の秩序に反してはならない」に変更。

第14条:「法の下の平等」に「障害の有無によって差別されない」を追加。

第15条-第3項:参政権対象者に「日本国籍を有する者」を追加。

第18条:「奴隷的拘束を受けない」「その意に反する苦役に服させられない」等の表現を「社会的又は経済的関係において身体を拘束されない」に変更。

第19条の2:「個人情報の不当取得の禁止」を追加。

第20条-第3項:国や地方公共団体の宗教教育や宗教的活動の禁止に関して,「ただし,社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては,この限りでない」を追加。
→「社会的儀礼又は習俗的行為」というのは,何をどこまで想定しているんでしょうか。閣僚や国会議員が「みんなで靖国神社に参拝」した時の玉串料を公費で負担できるようにでもしたいんでしょうか。改正案の意図はわからないけど,歯止めがなくなりそうで,ちょっと危険な感じがします。

第21条-第2項:「表現の自由」に「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動や結社は認められない」を追記。
→前述の第12条の場合は「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に書き換えただけですが,この条文の場合は,「表現の自由」に対して「公益及び公の秩序を守る」を追加するもの。「この条文に敏感に反応し,拡大解釈を恐れて猛反発するのは一部勢力の人のみじゃん!」って考える人は,かの治安維持法をぜひ思い出して欲しいです。
 治安維持法は,条文を見る限り共産主義革命運動を取り締まるための法律であったことは明白。にもかかわらず,この法律は拡大解釈されて,宗教活動・右翼思想・自由主義運動など,政府批判となる活動はすべて弾圧の対象となっていったという暗い歴史があります。この草案の「公益及び公の秩序を害する」という表現は,治安維持法にあった「国体の変革または私有財産制度の否認」よりも遙かに広い範囲を指しており,治安維持法よりもさらに広い範囲の言論統制につながる可能性があるということであり,この草案は非常に危険と感じます。
【参考】治安維持法における処罰対象者(要点)
 国体の変革または私有財産制度の否認を目的として結社を組織した者(未遂を含む),これに加入した者,これの実行に関して協議した者,これの実行を煽動した者,これが目的で騒乱・暴行その他生命・身体または財産に害を加えるための犯罪を煽動した者,これが目的で金品その他の財産上の利益を供与またはその申込みもしくは約束をした者。

第21条の2:「国政上の行為に関する国の国民への説明義務」を追加。

第24条:「家族は,社会の基礎的な単位として尊重される。家族は,互いに助け合わなければならない」を追記。
→前半の「・・・尊重される」はいいとしても,後半の「家族は互いに助け合わなければならない」は,道徳的価値観の話であり,まったく余計なお世話。憲法に書くようなことではなく,古い価値観の押しつけであり,キモいです。親子や夫婦で喧嘩したら,憲法違反なんですか? たとえば家族のDVに苦しめられている人は,相手が家族であっても助け合う必要はありませんよ。

第24条第2項:「婚姻は両性の合意に基づいて成立」(現行どおり)
→この項は現行の憲法から変更はありませんが,あえてコメントします。
 婚姻については「両性の」と憲法に明確に記載されていたんですね。うっかりしていました。つまり,同性婚は現行の憲法で認められていないと解釈できます。この条文の「両性の合意」は「両者の合意」のようにぜひ改めて欲しい。たったそれだけでも,この草案の株は上がったと思うのに,残念です。まあ,選択的夫婦別姓や選択的同性婚すら認めようとしない政治家に,これを期待しても無理なんでしょう。

第25条の2:「国による環境保全の責務」を追加。

第25条の3:「国による在外国民の保護」を追加。

第25条の4:「国は犯罪被害者及びその家族の人権及び処遇に配慮」を追加。
→国が犯罪被害者の人権や処遇に配慮するのはいいとして,なぜ犯罪被害者だけを特別に憲法に記載する必要があるのか理解できません。それを言ったら,事故の被害者とか,えん罪の受刑者(=被害者)とか,キリがないのでは?

第26条-第3項:「国は教育環境の整備に努めなければならない」を追加。

第28条-第2項:勤労者の団結権・団体交渉権に関して,「公務員については権利の一部又は全部を制限可能。この場合は公務員の勤労条件の改善に必要な措置を講じる」を追加。
→「公務員は通常の労働者とは別扱い」という以前に,現在は,民間会社での団結権・団体交渉権などは実質的にほとんど機能していないように見えるし,さらに非正規労働者にはそんな権利は存在していないのが現実。コメントしようがありません。

第29条-第2項:財産権について,「公共の福祉に適合するように」を「公益及び公の秩序に適合するように」に変更。また,知的財産権について追加。

第44条:議員と選挙人の資格について,「障害の有無で差別してはならない」を追加。

第47条:議員の選挙について,「各選挙区は人口を基本とし,行政区画・地勢等を総合的に勘案して定める」を追加。
→この条文は,「各選挙区の定数配分は人口比が原則だが,行政区画や地勢等の制約によって,必ずしも人口比にならなくてもいい」と解釈でき,国政選挙のたびに議員定数に関する違憲判決が出ているという問題を回避するための条文であり,許せません。
 僕としては,「議員一人あたりの有権者数が最大の選挙区の0.9倍未満の選挙区については,その議員の当選を無効にする」ぐらいの条文を追加して欲しい(有権者数の多い選挙区でなく少ない選挙区を無効にするというところがミソ)。また,「定数配分は有権者数によって自動的に配分する計算方式を導入する」とか,「議員自身が自分の選挙制度や定数配分を決めてはならない」なども追加して欲しい。とにかく,今の選挙制度や定数配分は腐りきっています。

第52条-第2項:「通常国会の会期は法律で定める」を追加。

第53条:いずれかの議院の4分の1以上の議員の要求があった時に開催する臨時国会について,「要求から20日以内に召集」を追加。
→それよりも,現行の憲法で,臨時国会を召集するのがなぜ内閣でなければならないのか,イマイチ理解できません。第6条で「国会の召集は内閣の進言によって天皇が召集」となっており,その関係のようですが,三権分立なんだから,臨時国会は国会だけの判断で開催すればいいのにと思います。
 ところで,余談ですが,国会は「招集」でなく「召集」なんですね。「召集」は,兵役の召集と国会議員の召集にだけ使用し,それ以外で人を集める時は「招集」となるらしい。

第54条:「衆議院の解散は内閣総理大臣が決定する」を追加。
→何を今さら・・・と思って,現行の憲法をよく読んでみたら,なんと,内閣が衆議院の解散を決めることは,国会の項にも内閣の項にも書かれておらず,第7条の「天皇の国事行為」のところにのみ書かれており,この条文にある国事行為は「内閣の助言と承認によって天皇が実施」とあり,したがって,「衆議院の解散は内閣が行う」ということだったんですね。

第56条:「両議員は,各々その総議員の3分の1以上の出席がなければ,議事を開き議決することができない」を「両議員は,各々その総議員の3分の1以上の出席がなければ,議決することができない」に変更。
→要するに,「議決については現行どおり3分の1以上の出席が必要だが,議事を開くには出席議員数の制限はない」と読み取れます。変更の意図はわかりませんが,本当にそんなんでいいの?

第63条-第2項:大臣の国会への出席義務について,「職務の遂行上特に必要がある場合は不要」を追加。

第64条の2:「政党」に関する事項を追加。

第65条:「行政権は内閣に属する」に「この憲法に特別の定めのある場合を除き」を追加。

第65条-第2項:「大臣は文民でなければならない」を「大臣は現役の軍人であってはならない」に変更。
→現行憲法の「文民」の定義に諸説あり,「かつての軍人以外に自衛隊員も含むのか?」「退役した軍人は文民?」などがはっきりしていないため,それを明確化したものと解釈します。たとえば,2014年の都知事選に立候補して落選し,最近何かとお騒がせの,あの元軍人候補が大臣になりうるのかどうか ということ。それにしても,あの人が61万票も獲得って,東京の有権者 コワすぎ!
 それはともかく,「軍人」ということばがこの条文にだけ出てきますが,軍人というのは「国防軍に所属する職員全員」ということ? きちんと定義しておかないと結局またもめるのでは?

第70条-第2項:「内閣総理大臣が欠けた時,あらかじめ指定した国務大臣が臨時にその職務を行う」を追加。

第72条:内閣総理大臣の職務に「行政各部を指揮監督し総合調整を行う」と「最高指揮官として国防軍を統括する」を追加。
→「行政各部を指揮監督」に加えて,さらに「最高指揮官として国防軍を統括」を書いているということは,国防軍というのは「行政各部」に所属しない別組織ということなんでしょうか。よくわかりません。

第73条:内閣の職務に「法律案を作成」を追加。また,「政令には罰則を設けることができない」を「政令は,義務を課したり権利を制限したりはできない」に変更。
→第72条にも「内閣は議案を国会に提出し」とあり,内閣が法律案を作成するのは一向に構いませんが,法律を作るのはあくまで国会議員の仕事ですので,国会議員さん,お忘れないように!

 今回はここまで。次回で最終です。次回のメインは緊急事態条項など。

関連ブログ:
 日本国憲法改正草案(前編)(2016年5月14日)

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