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2009年5月23日 (土)

裁判員制度スタート

 刑事裁判に一般市民が参加する裁判員制度が5月21日にスタート。この日以降に起訴された重大事件が対象となり,裁判員が参加する初めての裁判は,7月下旬ごろに行われる見通しとか。

 マスコミなどが実施している世論調査によると,「裁判員に選ばれてもやりたくない」という人が約半数いるようです。裁判員の辞退が認められるケースは限定的であり,やりたくない人になぜ強制的にやらせるのかというのは大いに疑問。そして,素人の裁判員が,被害者感情などに惑わされずに公正な判断が本当にできるのかは心配で,また,裁判員制度の導入に伴って,裁判を短期間で済ませたり素人にわかりやすくしたりするために,本来あるべき裁判の「厳格さ」「慎重さ」などがおろそかにされないかも気になるところですが,それでも僕は,この制度の導入には大賛成です。

 刑事裁判というのは,「疑わしきは被告人の利益に」と言われるように,検察には被告が有罪であることの客観的な証拠を示す責務があり,もし検察にそれができなければ,たとえ被告による犯行が事実であったとしても,裁判所は無罪と判断するしかないというのが鉄則です。ところが,過去のブログにも書いたように,裁判官が無罪判決を出すということは国家(警察・検察)に楯突くことであり,無罪判決を出しても喜ぶのは被告とその関係者だけであり,裁判官にとっては何の利益もない。現実に刑事裁判の判決の99%以上は有罪であり,裁判官はまさか自分の所に無罪の事件が回ってくるとは思っていないので,裁判官にとって無罪判決には大きな勇気が必要なんです。そんな裁判官だけでは公正な判断が期待できないので,国に人事権を握られていない一般人の感覚と常識を裁判に取り入れるというのはとても重要であり,裁判員制度導入の目的も,まさにそこでしょう。

 ちょうど今日の夕方,民放の「報道特集NEXT」という番組で,アメリカの大学が法学教育の一環として,冤罪事件に対する調査と支援を実施しているという話題が取り上げられていました。それによると,有罪評決後に,最新のDNA鑑定によって無実と判明した人が全米で235人もいたとか。中には,サスペンス小説並みに,死刑執行前ぎりぎりに無実が判明して命拾いした人もいたそうです。

 この番組によると,冤罪を生む主な原因は「無理な取り調べによるウソの自白」とのことで,身内の人間が殺害されたような異常な心理状態の時には,警察に言われるままにウソの自白をしてしまう傾向あるとか。この対策として,取り調べ内容をすべて録画するシステムがアメリカでは広がりつつあり,供述内容が裁判で覆ることが少なくなったという理由で,意外なことに警察・検察側に録画システムは肯定的に受け止められているそうです。

 日本でも,裁判員制度の導入に伴って,取り調べシーンの録画が開始されるそうですが,アメリカの場合はすべての取り調べシーンが対象で弁護士にもすべて開示されるのに対し,日本では検察にとって都合のいいシーンだけが編集されて出されるという可能性が指摘されており,このシステムが冤罪防止にどれだけ有効かは大いに疑問と言えます。

 実際に,もし裁判員制度が導入されていたら異なった判決になったのでは? と思える裁判がいくつもあります。たとえば,最近死刑判決が確定した和歌山の毒入りカレー事件は,物的証拠が何もなく,多くの情況証拠の積み重ねで有罪が立証されたと言われています。しかも被告は犯行を全面否認。もし僕がこの事件の裁判員だったら,まず有罪にはしなかったと思いますよ。もっとも,実際の裁判を傍聴したわけではないので,あくまで報道内容だけでの判断ですが。

 ということで,冤罪防止という意味で,僕は裁判員制度には大いに期待していますが,調べてみると,裁判員制度の対象となる裁判は,地裁で行われる裁判のみ。要するに,重大事件の場合は,ほとんどが一審のみが対象ということになります。つまり,いくら「市民が持つ日常感覚や常識を裁判に反映する」と言っても,その判断が高裁や最高裁で覆されたら,結局は今までといっしょなんですよね。多くの冤罪事件の最終判断を下したのが最高裁であることを考えると,裁判員制度は高裁や最高裁にこそ取り入れるべきものではないでしょうか。僕には「一審のみが対象」ということが裁判員制度の最大の問題点と思えますが,報道を見る限りは,この点を指摘している専門家は皆無です。

 この件に限らず,メディアには本質的な問題点をきちんと報じて欲しいものだと思います。あと,「どんな理由なら辞退できるか」みたいなことがしきりに報道されていますが,ある裁判で裁判員が拘束されるのは3~5日程度と言われており,急病とか身内の不幸とかのように,裁判の途中から参加できなくなった場合はどうなるのか(途中辞退が可能なのか)といった,僕が気になっている問題点に対しても,メディアはほとんど答えてくれません。

 過去の裁判員関連の記事:
  裁判員制度(2006年5月11日)
  お父さんはやってない(2006年12月8日)
  異なる評決(2006年12月18日)
  それでもボクはやってない(2007年1月21日)
  12人の優しい日本人(2008年6月17日)
  選考方法に疑問(2008年12月3日)

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